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Blog 2025/05/20

Star Professor Series: John N. Doggett

CO2025のHYです。以前のブログでコア科目(必須授業)とカスタムコア科目(選択必修授業)について記載しましたが、MBAの花形であるエレクティブ科目(選択授業)について言及できていませんでした。今回は一部の熱烈なMcCombs HPファンのリクエストにお応えして、Star Professor Seriesと題し、教授にスポットライトを当てて紹介していきます。というのも、エレクティブ=教授で選ぶという側面があるのと、エレクティブともなるとクセがありキャラの濃い名物教授たちが各ビジネススクールに存在します。McCombsにもそんなスター教授たちがいますので、授業内容と絡めて共有します。

初回は、間違いなくMcCombsで最も有名であり、一番インパクトのある授業を提供してくれるJohn N. Doggett教授(以下Doggett)です。DoggettはMcCombsやUTという枠を飛び越えて、一部の界隈ではグローバルにも著名な人物ですので、もしかしたら名前を聞いたことのある方もいるかもしれません。(私はどこで聞いたか忘れましたが、以前聞いたことがありました。) McCombsに入学したからには存命のうちにDoggettの授業を受けたいと決意し、結果的に全ての授業を受講しました。

Who is Doggett?

カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ、ロサンゼルス育ち。Yale Law Schoolで訴訟・貧困法を専攻し、JDを取得。その後、コネチカット州とカリフォルニア州で弁護士としてキャリアをスタートさせました。さらに、Harvard Business SchoolでMBA(経営・国際ビジネス・戦略を専攻)を取得。McKinseyの米国オフィスや、デンマークをはじめとする北欧地域を中心にコンサルタントとして活躍した後、グローバルコンサルティング会社やスペイン語圏向けのスポーツ専門TVチャンネルを起業するなど、シリアルアントレプレナーとしても活躍。まさに超エリート街道を歩んできた方です。

DoggettがMcCombsで教え始めてから、36年になります。今年で78歳を迎えますが、本人曰く「鏡を見るまではそんな年齢だなんて感じないよ」とのことで(笑)、かつてはその風貌と厳しさから学生たちの間で”Smiling Darth Vader”というニックネームがついていたそう。でも実際は、ユーモアがあって勉強熱心、そして学生想いの熱いハートの持ち主です。

Doggettの授業は負荷が高いことで有名で、ネイティブの学生ですらその厳しさにおじけづいて履修を避けるほどです。毎回の授業では複雑なケースの分析や要点の説明を求められるだけでなく、即答が難しい(しかし良質な)問いを投げられるなど、コールドコールの嵐で、張り詰めた緊張感を保ちながらディスカッションが活発に進んでいきます。International生の場合はそれに加えて英語の壁もあるため、更にハードルが上がります。それでも“The Doggett Experience”と呼ばれる授業体験は「厳しいけれど、圧倒的に成長できる」ことで知られており、時代を超えて人気を博しています。

当然、その厳しさの裏には、ちゃんと筋の通った哲学があります。Doggettは授業を”Executive Board Meeting”と見立て、学生にも相応のプロフェッショナルな姿勢を求めます。それは学生たちをこれからの社会を牽引するリーダー人財であると信じ、ビジネスの知識だけでなく人間的にも成長してほしいと期待を込めているからです。また、「学生自身が“学び”を自分事として捉え始める瞬間」を大事にしているとのことで、「学生が自分たちで議論を動かしていく瞬間をつくるのが私の役目であり、そうなったら自分は教室の隅に立ってるだけでいい」と笑っていました。卒業生には、現在全米で活躍するCEOやビジネスリーダーが数多くいて、「Doggett Experienceがあったからこそ、今の自分がある」と語る人も少なくありません。

The Doggett Experience

Doggettは何年にも渡って各セメスターで3つずつエレクティブ科目を担当しています。(情熱もさることながら体力もすごい。) ※Spring 2025 Semester終了時点

  • Opportunity Identification and Analysis (Fall・Spring両方)
  • Entrepreneurial Growth (Fallのみ)
  • Management and Marketing in Global Arena (Fallのみ)
  • Management Sustainability Practicum (Springのみ)
  • Global Management (Springのみ)

各授業の詳細については、入学後のお楽しみということでここでは控えますが、基本的にはHBS式のケースメソッドで進められます。答えのない抽象的な議論に発展することも多く、事前準備を含めて脳への負荷はかなり高めです。扱うケースは直近数年の最新事例が中心で、AIや少子化といった現代的な社会課題と絡めて、多角的に考察する内容となっています。

取り上げられた事例としては、例えば:

  • 創業期やスタートアップ段階の企業
  • スケールアップを迎えたグロース期の企業
  • 各国でグローバルビジネスを展開する多国籍企業
  • 世界各地におけるサステナビリティ関連の取り組みや新技術 など

テーマも業種も地理的にも非常に幅広く、視野の広がるケースが揃っていました。

私自身、MBA前から世界各国で社会インフラおよびサステナビリティ領域の事業開発に長く携わってきたこともあり(そして卒業後もグローバルでの事業開発に携わる予定であることから)、“グローバル”、“イノベーション”、“アントレプレナーシップ”、“サステナビリティ”の全てをカバーするDoggettの授業は、まさに興味・関心のど真ん中に突き刺さるものでした。

特にグローバルビジネスにおいては、企業が置かれた事業環境を多角的に理解した上で、絶え間なく意思決定を下し続ける力が求められます。国の成り立ちや発展の歴史、宗教観、国民性、地政学リスク、産業構造、技術動向など、考慮すべき要素は膨大で、その組み合わせは無数に存在します。さらに、出した意思決定の「正しさ」が数年後にしか検証できないことも少なくありません。

Doggettはそうした複雑性の高い現実に向き合うための良質なケースを見事に選び抜いてくれました。扱ったトピックの一端ですが、1960年代の国際貿易ビジネスから、イスラム金融、中国の一帯一路政策、ウクライナ侵攻、脱炭素、さらにはK-POPアイドル(BTSなど)に至るまで、まさに世界中を舞台にした濃密な内容ばかりでした。

授業を通じて自分の知識や教養の足りなさを痛感するとともに、これからの時代のリーダーとして必要な視座と素養の一端を学ぶことができたのは、最大のTakeawayでした。

Doggettから学んだこと

私は学生としてDoggettの授業を受けただけでなく、2年生時にはありがたいことに彼のTeaching Assistant(TA)も務める機会を得ました。DoggettのTA業務は、いわゆる「一般的なTA」とは少し違います。というのも、いくら元気とはいえ、Doggettは78歳のおじいちゃん。授業運営に関しては、拾える作業はすべて拾うスタンスで、昼夜問わず飛んでくるリクエストを即対応でさばき続けるという、まさにフル稼働の日々でした(笑)。ただ、その分、授業の外でも深く関わることができ、Doggettがどんな姿勢で授業に向き合っているのか、その舞台裏を間近で見ることができたのは本当に貴重な経験でした。

まず驚いたのは、毎セメスター、必ず最新のケースを選び直していること。10年以上前のケースを使い回す教授も珍しくない中で、Doggettは毎回、最新の技術トレンドや社会情勢を反映した教材にアップデートしていました。彼自身も学生と一緒に学び続ける姿勢を大切にしており、文献や記事だけでなくYouTubeまで駆使して、時には学生以上に入念な予習をして授業に臨んでいたのが印象的でした。あるとき、「なぜ毎回ケースを入れ替えるのか? そのモチベーションはどこからくるのか?」と本人に聞いたことがあります。そのとき返ってきたのは、こんな言葉でした。

「社会が変化していく中で、過去を学ぶことももちろん大切だ。でも、もっと大事なのは“今”何が起きているのか、そして“これから”何を考えていくべきかを、学生たちと一緒に議論すること。それこそがビジネススクールの使命だと思っている。それに、自分は“Uncontrollable Curiosity(抑えきれない好奇心)”がある。どんなに年齢を重ねても、新しいことへの関心は尽きないし、常に新鮮な発想をもつ学生から学びたいと思っている。」

この言葉は今でも心に残っています。

私自身はDoggettのすべての授業を履修し、かつTAとしてもフルコミットしていたため、ほぼ毎日顔を合わせていました。校内では“Doggett’s Right Hand”と呼ばれ、一緒にいる姿はクラスメートにとっても見慣れた光景になっていたようです。「また明日だな」と笑い合うのが日常で、そんな学生は過去36年間の中で私が初めてだったそうです。よく冗談交じりに、「Hiro, you are crazy. But you are special.」と声をかけてくれたのも、今では良い思い出です。先般のPoets&Quantsのインタビュー記事でDoggettからコメントを寄稿してもらえたことも良い記念になりました。

Doggettとの出会いは、私のMBA生活をさらに濃密で意味のあるものにしてくれました。改めて、「一生勉強」と感じさせてくれましたし、次世代のリーダー育成に命を懸けるその姿勢には、計り知れないほどの刺激を受けました。これからも付き合いは続きますが、今後はよき社会人の先輩として、彼の背中を追い越す心意気で邁進していきます。

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